なまこを巡る食文化・効能

日本では珍味として、お隣中国では薬として、古くから人々と関わってきたなまこ。
なまこの強い生命力は、食べることによって私たちにさまざまな良い効果をもたらします。

なまこの食文化

日本 なまこの食べ方としてまず思い浮かべるのが酢の物。スライスして三杯酢で和えると、コリコリとした食感と磯の香りが後を引きます。左党に愛される腸を塩漬けにしたこのわたのほか、卵巣を1本1本取り出し、三味線のバチのような形に整えて素干しにするくちこなど、内臓まで無駄にせず加工して食べるのは日本独自の食文化です。七尾市でなまこの加工・販売を手がける大根小夜子さんは子どもの頃から家業を手伝い、見よう見まねでうまみを残しながら卵巣から砂を除く技を身につけたといいます。このようにはるか昔からなまこの加工法は親から子へ伝えられ、時の流れとともに日本の食文化として定着したのでしょう。

中国 同じようになまこと古くから関わりのある中国。しかし、その食べ方は日本と大きく違います。なまこを生で食べることはほとんどなく、一度乾燥させ、調理の際水で戻してから火を通して食べるのが一般的です。乾燥なまこは高級食材のうえ、調理に手間がかかるため、一般家庭の食卓に乗ることはほとんどありません。日本と中国でまったくと言っていいほど食文化が異なる背景には、島国で海が近い日本と広大な大陸である中国との環境の違いが考えられます。

なまこの効能

なまこは漢方薬にも使われると聞いて、北陸大学薬学部東洋医薬学准教授で
漢方アドバイザーでもある劉先生にお話を伺いました。

中国ではなまこをなんと呼ぶのですか?

劉先生
中国名は「海の人参」と書いて「海参(ハイシェン)」。「参」とは朝鮮人参のことです。
なまこは朝鮮人参のように滋養強壮効果が高いので、このような名前がついたのでしょう。

どのような食べ方をするのでしょうか?

劉先生
なまこは薬膳料理に使われる生薬の一種。薬膳では食べ物をまず物質を表す陰と、機能を表に分類。さらに「食性」、「食味」、「帰経(食べ影響を与える臓器)」に分けて、それぞれの効能を利用して体の不調を整えます。
薬膳の考え方

    なまこ

陰・陽
食性 熱性・温性・寒性・涼性・平性
陽温性(生の場合は涼性)
食味 酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味 鹹味
帰経 肝経・心経・脾経・肺経・腎経 心経・腎経

上の表からなまこは機能を補う食品で、心臓と腎臓に働きかけることが分かります。造血作用による疲労回復や、免疫力アップ、性機能低下、強壮、疲労回復、冷え、老化防止などに効果があります。元気を付けたい、貧血気味、皮膚が乾燥気味といった時に積極的に摂ると症状の改善が期待できるという訳です。
乾燥して使うのは太陽に当てて水分を飛ばすことで効能を凝縮させるため。加熱調理することによって消化もよくなります。また、不調に合わせて他の生薬と組み合わせて料理するとより効果が高まります。

なまこの加工のヒント

なまこの効能を最大限にいただきましょう!家庭でも真似できる調理のヒントを症状別にご紹介します。

カサカサ肌が気になる人は… なまこと同じ腎臓に働きかけて肌を潤して老化を防ぐきくらげと一緒に調理。
お互いの効能を高めあってより高い結果が期待できる。
冷え性が気になる人は… 冷えは体の機能低下によって起こるもの。エネルギーを高めるなまこに、過不足のある状態を正常に戻す収れん効果のあるはすの実をプラスすれば効果的。
もの忘れが気になる人は… 腎臓に入って脳の動きを活発にするくるみと炒め物に。
これらはすべて乾燥したなまこを水で戻して使うことが前提ですが、生のなまこを使っても挑戦してみるみる価値はありそうです。
注意して欲しいのはタンが出る、ぜんそく、発熱などの急性の症状の場合。なまこはエキスが強いうえ火を通すと吸収が良くなるので、場合によっては急性症状を助長してしまう恐れがあります。病気になってしまう前に、食べ物の効能を理解して上手に取り入れながら体のバランスを保つことが大切です。
なまこがもっと好きになる!?なまこミニコラム~なまこお料理編~
石崎港なまこ漁師直伝!
『かんぞ和え』
☆用意するもの
なまこ
白身の魚(キス、カマスなど)
大根
酢味噌

☆ さぁ、作りましょう
1、白身魚を焼いてワイルドにほぐす
2、大根おろしをがっつりつくる
3、なまこを力の限りスライスする
4、1~3を丼に入れて酢味噌で和える焼いた魚はダシの代わり。漁師料理なので、細かいことは気にせず豪快に作りましょう。

なまこには悪酔い防止の効果があるとされ、「明日もきちんと仕事に行けるように」と酒の席では必ず出された料理なのだとか。一度お試しを!